”入場料のある本屋”「文喫」が、六本木に12月11日オープンした。入場料がある新しい形の本屋として話題をよんでいる。「文喫」がなぜ、今、六本木に、誕生したのか、この新たなスタイルが受け入れられるのか、考えていきたい。
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「文喫」とは ― 文化を喫する、入場料のある本屋。
・六本木交差点と六本木ヒルズの間、青山ブックセンター跡地に12月11日オープン
・入場料1500円(+tax)で、一日中利用可能。喫茶室を併設しており、コーヒーと煎茶は無料
・人文科学、自然科学からデザイン、アートまで、雑誌や漫画など、約3万冊を販売する
・各ジャンルや作者など適度に網羅的にあり、分類しすぎずランダムに陳列
・コンシェルジュであるスタッフと相談しながら本を選ぶことができる
「文喫」はユニークである
「文喫」は本屋と呼ぶには斬新すぎる。出版社から本を仕入れ読者に販売する小売業としてのこれまで書店とは大きく異なる存在だ。
まず目につくのは入場料の存在であろう。本屋に入るのにお金が必要なのだ。本を買うという行為のために料金を払うということは今までになかった。その入場料で本が数冊買えるほどである。次に驚くことはやはりその陳列の仕方であろう。様々なジャンルの書籍3万冊を、ある程度のジャンル分けはされているものの、無秩序に恣意的に配置しているのである。平積みされている本もすべてバラバラなのだ。買いたい本があったとしても自分で見つけることはできないだろう。スタッフでさえ発見できるかどうか疑問だ。
文喫のHPに次のようにある。
”普段はあまり出会うことのできないラインアップも交え、来店されたお客様の新たな興味の入り口となります。”
”意中の一冊と出会うかもしれない”
このように、いままでの書店のような買いたい本を買いに行くだけ、といった考えとは全く違うコンセプトを持っていることがうかがえる。本に出会う、本を読む、本を買うという経験をしに行く場所であるといえよう。本のマッチングサービスといってもいいだろう。全く新しい本屋である。
同様のコンセプトは以前にもあった
例えば私が高校時代に足しげく通っていた、大阪阿倍野にある STANDARD BOOK STORE。雑貨と本が混ざって並べられており、カフェも併設されている。本がランダムに置いてあるおかげで、普通の本屋ではまず出会わないような本を手に取る機会があり、大変気に入っていた。また気になった本を購入前でも併設のカフェに持ち込みゆっくり読むことができるのでとても便利だ。特定の本を買うときは大手書店、読みたい本がなく新たに探すときは STANDARD BOOK STORE と使い分けていた。雑貨に関連した本も置いてあり、雑貨と本の両方を楽しむこともできる。大阪に4店舗あり、東京にはないようだ。とても残念である。東京だと銀座や代官山にある蔦屋書店が近い。こちらは本の種類は多彩であるがジャンル分けはしっかりされており、新たな本との出会いの機会は少ない。
また、本屋ではないが、目黒区駒場の日本近代文学館内にある BUNDAN COFFEE&BEER。店内に日本の文学作品が約2万冊あり、飲み物や軽食を頂きながら現代の文学を味わうことができる。ここでは本の中でも文学に焦点をあてており文学とのふれあいをテーマにしているため、書籍の販売をする本屋とは違った視点ではあるが、新たな作品に出会えることは間違いない。気に入った本は借りることができるようだ。私はまだ行ったことがないので是非行ってみたい。同じく本屋ではないが、渋谷に森の図書館というものがある。こちらはカフェ併設の図書館であり、本を借りることができる。ランダムに置いてあるため普段読まない本を手に取りやすい。
「文喫」は現代の書店として必要
新たな本との出会いを楽しむというコンセプトはこれまでにもあった。しかし、これからの書店のありかたの提案として「文喫」がイニシアティブをとることは非常に大きな意味を持つ。
元来、本屋に本を買いに行くということは、特定の本を買うという目的がありその目的を達成するための一方向の仕事であった。本屋は目的達成のためのツールであり手段であった。インターネットが発達した現代ではその仕事はネット上で完結するようになった。Amazonに代表されるオンライン書店で、本の検索、購入、配送までいとも簡単に達成される。ツールとしての書店はネット書店で十分なのである。事実、書店の数は平成の間で半減している。
では、特定の本を買うという目的がない場合はどうだろうか。本は読みたいが、読みたい本がないという人々のことである。このような思いをしている人は案外多くいるのではないか。かくいう私もその一人である。
オンライン書店では情報が整理されているがゆえに、他の本の情報をみるというノイズがなく新たな出会いをすることが困難である。そのような悩みを持つ人々こそ、わざわざ本屋に出向くのではないのだろうか。作者別ジャンル別に整然と分類されていない無秩序な本棚から新たな出会いを求めているのではないのだろうか。本屋はもは手段ではなく本屋自体が目的なのである。読者と本屋の双方向の関わり合いとなる。そのニーズにこたえる新たな書店の形、それが「文喫」なのである。
では、なぜ入場料をとるのか、六本木なのか。前述のとおり極めて同じようなシステムの STANDARD BOOK STORE について考えてみてほしい。五年ほど前から存在し、現代のニーズにもマッチしているのに大阪に4店舗だけしかない。大阪でもそれほど流行っていないし、私の知る限り同様のシステムの他店も現れていない。コンテンツは良いのに宣伝やマーケティングうまくいっていないのだろう。多くの市民はこのような書店があることすら知らない。今回、「文喫」がもし入場料なしで都心から離れた場所にできていたらどうだろうか。話題にすらならなかっただろう。STANDARD BOOK STORE の二の舞である。大勢の人が集まる六本木でおそらく日本初の入場料をとる本屋として誕生したため、はじめて大きく注目され話題になったのだろう。ローンチは大成功だったと言える。
しかし、入場料1500円は正直高い。私は通うことはない。一般庶民も同じだと思う。「文喫」自身が流行ることはないだろう。しかし、このコンセプトが広く認められ現代の新たな書店の形を世に示すことができたならば、「文喫」はその役目を大いにはたしたことになる。願わくばそうなってほしい。前世代の本屋である青山ブックセンター跡地に、現代の新たな本屋である「文喫」が誕生する、なんともすばらしい時代の流れではないだろうか。
これからの本屋
以前の記事でも書いた通り、私の悩みは「さよならを待つふたりのために」を超える本が見つからないことである。以来本屋に行く楽しみが減っている。「文喫」のような新たな本屋が普及すれば、”意中の一冊と出会うかもしれない”可能性が高まる。出会わなくてもいい。本屋に行くこと自体が楽しみになるだろう。もちろん STANDARD BOOK STORE が注目され東京に進出するようになっても嬉しい。通いつめたいと思う。
近年、本屋や出版界は厳しい境地に立たされている。「文喫」がきっかけとなりまた本屋が賑わうようになれば幸いである。これからの本屋の進歩が楽しみで仕方がない。
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